インフレータブルボートの「軽量化」に挑む、ジョイクラフトのこだわりと開発の舞台裏
私たちが日頃、お客様やショップ様からいただくご要望の中で、特に多いのが「とにかく軽いボートが欲しい」という切実な声です。
車への積み込み、浜辺までの運搬、釣りが終わって疲れた体での片付け......。ボートが軽ければ軽いほど海へ行くハードルは下がり、出航の回数が増えるのは間違いありません。
「軽さは正義」というのは、インフレータブルボートにおける一つの真理といえます。
しかし、ここで一つ疑問が浮かんできます。
「空気を入れるだけのゴムボートが、なぜそんなに重くなるの?」と。
実は、ボートメーカーにとって「軽量化」は、安全性や性能とのせめぎ合いの連続です。
今回は、私たちが日々どのようにして「1kgの軽量化」に挑んでいるのか、その舞台裏を少しだけご紹介します。
ボートに軽さが求められる4つの理由
そもそも、なぜインフレータブルボートに軽さが求められるのでしょうか。
私たちが軽量化に挑戦し続けるのは、単に数字のスペックを競うためではありません。
その理由は、ボートが軽くなると、「ボートライフ全体の快適さと自由度」が劇的に変わることを知っているからです。
ここでは、軽いボートによって得られる4つのメリットを解説します。
運搬性が高い
どれだけ高性能なボートでも、出すのが億劫になってしまっては意味がありません。
車への積み込み、ドーリーでのスロープや砂浜の移動など、ボートが軽いだけで釣行前後の体力的負担は驚くほど軽くなります。
一人でも気軽にエントリーできる運搬性の高さは、海へ出かける回数そのものを増やしてくれるはずです。
スピーディーに移動できる
船体が軽いボートは、エンジンの推進力がダイレクトに伝わるため、優れたスピード性能を発揮します。
加速時にバウ(船首)が上がりやすく、滑走状態に入るまでに少し時間がかかる面もありますが、ベースのスピードが速いため、最終的な目的地への移動時間はしっかりと短縮できます。
また、軽量だからこそ得られる「軽快なハンドリング性能」も大きなメリット。
思い通りに操船できる扱いやすさで、限られた時間の中でもストレスなくスピーディーにポイントへ移動できます。
燃費が良い
ボートが軽ければエンジンにかかる負荷も減り、燃費が大幅に向上します。
また、持ち運ぶガソリンの量を減らせることで、さらなる軽量化にもつながります。
準備や片付けが楽で時間のゆとりができる
軽量でしなやかな最新ボートは、空気の抜けが良く、驚くほど小さく折りたたむことができます。
そのため、現地に到着してからの準備や、釣行後の片付けに要する時間が劇的に短縮されます。
準備と片付けが素早く終わるということは、そのぶん「海の上で大好きな釣りをたっぷり楽しむ時間」が多く取れるということ。
「明日は楽しい釣行だけど、あの重くてかさばるボートの準備と、帰ってからの片付けが大変だな......」という、釣行前後に付きまとっていた精神的な負担からも完全に解放されます。
「軽いから今日もちょっと海に出よう」と思える心のゆとりこそが、軽さがもたらす最大の価値といえるでしょう。
ボートの「重み」の正体とは?
とはいえ、軽いボートを作るというのは、言葉でいうほど簡単ではありません。
海の上では鋭い岩場や魚のヒレ、ルアーのフックなど、常に損傷のリスクが潜んでいますし、チューブ・フロアを含めたボートの剛性が足りないと、波を受けたときにボートがグニャリとたわんでしまい、挙動が不審になることも。
そのため、生地を薄くして、フロアを取れば軽くなるのでは?という単純な話ではないのです。
ボートメーカーが目指すべき軽量化とは、単に構成している要素や材料を引き算するのではなく、「安全性や強度、走りの性能など、あらゆる面で一切妥協せずに、どこまで重量を削ぎ落とせるか」という、極限のバランス設計にほかなりません。
では、具体的に何がボートの重さに影響するのか、その要素を見ていきましょう。
大きさ、船型、チューブ径
当然ながら、ボートの全長や横幅が大きくなれば、それだけ使う材料の量が増えて重くなります。
さらに、安全性を高めるためにチューブ(空気を入れる気室)を太くしたり、波をきれいに受け流すために複雑な船の形を採用したりするほど、生地の使用量が増えて重量はかさむことになります。
フロアの構造、材料、構成
一昔前は、足元を安定させるために重いアルミパネルや木製の耐水合板を敷き詰めるスタイルが主流でした。
現在のインフレータブルボートのフロアは、すのこ状の樹脂や木材を並べたスラットフロアや「ドロップステッチ構造」のエアフロアなど様々な種類があります。
ボートのフロアは走行性と安定性に関わる一方で、ボート全体の重量を跳ね上げる大きな原因のひとつです。
ボート布
ボートの「主軸」となるボート布も、重量に直結する要素です。
波しぶきや紫外線、汚損、こすれへの耐性や気密性を保持するためにコーティングを厚くするほか、ボートの強度を上げるために太い糸を使ったり、繊維の織り目を密にしたりするほど、ボート布自体に重みが生まれます。
いかにして軽くてしなやかなボート布を採用できるかがキーポイントといえるでしょう。
トランサムボードの大きさ・厚さ
船外機(エンジン)を取り付けるための強固な板である「トランサムボード」は、エンジンの強力な推進力と重量をがっちり受け止めるため、非常に頑丈な木材や特殊樹脂で作られています。
対応するエンジンの馬力が大きくなるほど、トランサムは大きく厚くなり、ボートの後部に大きな重みが発生。運びづらくもなります。
他社には真似できない、ジョイクラフト独自の軽量化技術
安全性に対し一切の妥協をせず、これほどの軽量化を形にできるのは、決して素材の選択だけが理由ではありません。
そこには、他社の一歩先を行くジョイクラフト独自の設計思想と、造船工学に基づいた高度な技術力があります。
徹底した船型へのこだわり
第一に、重い素材や補強材に頼るのではなく、「船の形そのものの設計」によって強度を生み出す技術を駆使しています。
計算し尽くされたメインチューブや船底の形状、独自のキールデザインにより高い剛性を確保しつつ、水の抵抗を上手に逃がし、波から受ける衝撃を効率よく分散。
構造的な無駄を削ぎ落とすことで、軽さと高い走破性を両立させています。
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この「形による軽量化と高性能の両立」を具体化した設計思想が、「スモールトランサム・ビッグスターン」および「マイクロトランサム・コンセプト」です。 ・スモールトランサム・ビッグスターン 船尾のチューブ(スターンチューブ)を極太にすることで、圧倒的な浮力を確保。 これにより、本来なら厚く重くなりがちなトランサムボードを「小さく・狭く」することに成功し、大幅な軽量化を実現しました。 重いエンジンをしっかり支えつつ、水面を滑るような抜群のフラット走行が可能です。 ・マイクロトランサム・コンセプト(究極の軽量2馬力ボート) この思想をさらに突き詰め、従来の丸型ボートにわずか17cm幅のミニマムなトランサムボードを固定。 軽さを極限まで追求しながら、2馬力エンジンを本格搭載できる画期的なシステムです。 |
ドロップステッチ(DWF:ダブルウォールファブリック)を採用
高圧エアフロアに採用されている「ドロップステッチ構造」を採用。上下の生地を数千本の頑丈なポリエステル糸でつなぎ留めるこの技術は、高圧の空気を注入することで、空気の力とは思えないほどの高い剛性と安定感を生み出します。
合板やアルミ板ほどの硬さには届かないものの、畳ほどの硬さにはなるため、大人が上に立ってもフニャフニャせず、しっかりした足場を確保。なおかつ、フロアの重さは1/2~1/3程度に軽減されます。
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ちなみに... 今でこそ当たり前になったドロップステッチ構造ですが、これは1977年、当時アキレス株式会社に所属していた現ジョイクラフト代表の郡山が、ヨーロッパから日本へ持ち込み試作したものです。 当時の日本では画期的なフロアボートであり、インフレータブルボート業界に新たな風が吹き込みました。 (もっとも、当時はその性能が正しく理解されず、従来の簡易的なエアフロアと同類に扱われてイベントの見世物のような扱いを受けるなど、業界の反応は冷ややかなものでしたが...) |
独自のボート布を採用
ジョイクラフトでは、単に厚い布を使うのではなく、ポリエステルの糸を細く織り込んだ頑丈な布に、高品質なPVC樹脂をしっかり染み込ませた独自のボート布を採用しています。
繊維の太さと織り方、コーティング材のコンパウンドを緻密に工夫することで、「従来の生地よりも破れにくく強靭でありながら、驚くほどしなやかで軽い」という、相反する性能を高次元で実現。
これにより、耐久性と強度をしっかりと維持したまま、大幅な軽量化が可能となりました。
トランサムボードの厚さ・幅・形状を最適化
トランサムボードはエンジンのパワーをロスなく船体に伝える要です。
ジョイクラフトの最新モデルでは、強度を落とさずに厚みや幅を最適化。
たとえば、24mm厚のトランサムボードを使用するところを、18mmで耐えられるように船型を工夫するなど、船全体の構造設計を変えることで、更なる軽量化を実現しました。
船型と材料の「黄金バランス」
当たり前のことですが、船を小さく、チューブを細くすればボートはいくらでも軽くなります。
しかし、それだけでは安全なボートとしては成立しません。ボートの強度や剛性には、以下のような要素がすべて複雑に絡み合っているからです。
・ボート布の破れにくさ・引っ張りへの強さ
・チューブの太さ(浮力と安定性)
・チューブの空気圧(適切な硬さをキープする力)
・ボートの縦横の長さと幅の比率(航行時のバランス)
・波と風をきれいにいなし、走行抵抗を最小にする船の形
船の長さ、幅、チューブの太さ、ボートを構成する材料など、全体のバランスを綿密に計算し、船の強度と剛性、そして使用時の快適性を高い次元で追求する――。
こうした複雑な方程式を正確に計算できる小型ボートのメーカーは、海外を含めそれほどありません。
様々なアプローチを選択してユーザーが求める「軽量化」を具現化する能力は、私たちジョイクラフトの大きな強みです。
現代の小型インフレータブルボートにおいて、常に進化を追い求める開発企業として、今後もジョイクラフトは強い使命感を持ってボートの設計に取り組んでいきます。
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インフレータブルボート豆知識 実は、ボートの設計は軽くて小さいほど難易度が上がります。 ※設計難易度のイメージ: 大きくて重い < 大きくて軽い < 小さくて軽い その理由は、軽いボートは物理的に水上での安定性がどうしても下がりやすくなるためです。 軽さを追求しながら、いかに高性能で安定性の高いものを作るか、ここに技術の真価が問われます。 |
「軽いボート=価格が安い」という誤解
最後にひとつお伝えしたいのが、「軽いボート=材料が少ないから、価格は安いはずだ」との認識は間違いです。
ここまでご紹介した通り、安全性をしっかりと保ったまま極限の軽量化を達成するためには、以下のように莫大なコストと技術が投入されています。
・軽量かつ強靭な、特別仕様の高密度ボート布の開発・採用
・高度なドロップステッチ構造の床材
・強度のバランスを計算し尽くした精密な設計と職人の技
つまり、妥協なくこだわり抜いて作られた軽量ボートは、むしろ高度な技術の結晶であり、非常に価値の高いプレミアムな製品なのです。
当社のウルトラライトモデルである「ラ ポッシュ(La Poche)」は、まさにその代表例。
乗れば納得していただける圧倒的な軽さと扱いやすさ、安全性を備えたこのモデルは、私たちの「軽さと強さの哲学」を具現化した自慢の1艇です。
「そろそろ体に負担の少ないボートに買い替えたい」
「一人でも気軽にエントリーできる、本物のモデルを探している」
そんなときは、ぜひジョイクラフトのボートをチェックしてみてください。
ボートメーカーとして自信を持っておすすめできる、軽さと強さを兼ね備えた自慢のモデルが、あなたを新しいボートライフへと連れ出してくれるはずですよ。
